晩秋の久住 <第一日目>

2015 晩秋の久住

第一日目(2015.10.21.Wed.)

晩秋の久住

10月21日 水曜日 快晴 6時少し前に目が覚める。普段じゃあありえないことだ。
シャワーを浴び、脳を覚醒させる。
マンションを出るときに管理人のNさんに、怪訝そうな顔で見られる。そりゃあそうだ、平日に勤め向きの恰好じゃあない。
外へ出て、駅へ向かう多くの人々とは別方向に、彼らとは不釣り合いな格好でレンタカー屋へ。デミオを7890円で借りて、九州道鳥栖から大分道へ。九重インターで降り、一路久住を目指す。途中の九酔峡の紅葉が美しい。

九州北部地図

長者原に到着し、ビジターセンター向かいの駐車場に車を入れたのが11時過ぎ、着替えたり靴を履いたり、ビジターセンターによってトイレを済ませたりして、出発は12:00ちょうどとなった。

長者原登山口からの登り

登山口から諏蛾守越方面にむけ、しばらくの間登山道はまっすぐに伸びている。
5分も登ると、立ち上げられたパイプから、勢いよく水がほとばしり出ている場所に来た。しかし、なぜか自分はここで給水しなかった(もちろん給水タンクは持参している)。なんで給水しなかったのかいまだによく思い出せない。
山の上に行っても給水できるポイントがある・・・と、なんとなく思い込んでいたとしか言いようがない。
この日から翌朝にかけて、久住山頂下であれほどの体力消耗を招いたのも、ここでの思い違いのせいだが、すべて後の祭りだ。
出発時間が遅くなったことも手伝ってか、先を急ぐ気持ちが勝っていたのだろう。事の深刻さもわからずに、500mlのポカリスエット1本もって、どんどんと登っていく自分がいたのであった。

◆通常のマウス操作で拡大・縮小、移動が可能です。
◆第一日目のルートは、赤の線で表現しています。出発地点の長者原ビジターセンター、到着点の久住別れ避難小屋までスクロールしてみてください。
◆この地図は、国土地理院電子地形図の地図タイルを使用しています。 第一日目の行動予定は次のように想定していた。

長者原 ⇒ 諏蛾守越 ⇒ 三股山ピストン ⇒ 久住別れ

 ⇒ 星生山 ⇒ 久住山 ⇒ 中岳 ⇒ 法華院温泉・坊がつる

だがこれは粗い計画で、今日どこで寝るかも、この時点で定めていない。まあ、最悪は野宿もありかな・・ぐらいの考えだ。

砂防ダムを通過

まっすぐ道が終わり、しばらく林道を進むと砂防ダムが現れる(12:20)。 ビジターセンターの標高が約1,035M、ここが約1,190Mだ。

緑に赤

山肌の紅葉が美しい。高まる期待・・。

森林限界

長者原から見えていた三股山が大きく目の前に。 既に高木はなく、森林限界に近づいている。

溶岩原か

12:36 溶岩原(?)に出た。降雨時は川になるのだろう。

ススキ原

斜面を覆うススキとササのコントラストが美しい。

ススキと笹の斜面

三俣山の山容

堂々たる山容の三股山。

硫黄岳

12:55 硫黄岳西斜面の噴気が、はっきりと見えてきた。
時間が押しているので、重い荷物を背負っているにもかかわらず、小走りに登っていく。この自分はまだ元気だ。

硫黄岳西斜面の噴気

黒々として植物を寄せ付けない山肌が、活発な火山活動を物語る。

三股山斜面

三股山を左に見上げながらどんどん登る。

諏蛾守越到着

13:20 諏蛾守越到着。 避難小屋は多くの登山客であふれていた。 見上げると三股山山頂から、何人も降りてくるのが見える。 当初は三股山へのピストンを計画していたが、時間がないのがはっきりしていたので断念。 小休止後、すぐに出発し、北千里ヶ浜方向へおり下る。

坊がつる方面

北千里ヶ浜から坊がつる方面をのぞむ。 案内図では「中宮跡」となっているあたりだ。 中宮跡・・?? 後で調べてみよう。

分岐標識

13:26 諏蛾守越から下りきったところの分岐の標識。 北千里ヶ浜は、かつては巨大な火口であったのか、カルデラのすその谷間であったのか・・・ いずれにしろ、このように広いフラットな地形が形作られるためには、水が関与しなければならない。かつては湖があったものを、長い年月をへて土石や火山灰が堆積して埋め立てたものであろう。

北千里ヶ浜をゆく

北千里ヶ浜を「久住別れ」方向に進む。 荒涼とした、砂漠的風景だ。

見上げれば岩稜が

広くて平らな北千里ヶ浜を、ややコースを外れて西側斜面に沿って歩く。 上を見れば、大きなごつごつとした岩が山肌を覆っている。

岩だらけの山塊

転がり落ちた大岩群

周囲には大きな落石が散らばっているから、あまり近づかぬ方がよさそうだ。

小さな流れ ふと足元をみると、小さな、ほんの小さな流れがある。 いずれ周辺の山肌からしみ出したものであろうが、わずかながらに流れがあるのだ。 ためしに一口だけ口に含んでみる。 硫黄の成分が強く結構な酸っぱさだ。 給水するか・・・いや、まだいいだろう・・・(ばかな)。

硫黄山見上

硫黄山見上②

硫黄山見上③

黄山東側の山頂部を仰ぐ。

硫黄山見上④

盛んに噴気が上がっているが、噴火の恐怖というのは感じられない。 比較的安定しているのだろう。 油断は禁物だが、もしいま噴いても簡単には逃げようもないのだ。

北千里ヶ浜振り返り

13:36 進んできた北千里ヶ浜を振り返ると、左手には先ほどの岩に覆われた山稜。 溶岩の塊が盛り上がり、風化してできたものであろう。 正面奥には三股山。

巨大な岩塊

13:58 北千里ヶ浜の広い火口原も終わりにさしかかり、登りが始まる。 まず出迎えてくれるのが、この大岩だ。 小さな家一軒分もあろうかという黒々とした大岩が宙に浮いている。 これが落ちてきたら、本当にひとたまりもない。 「大黒岩の頭」と勝手に命名し、先を急ぐ。

久住別れへの登り

14:08 久住別れ手前の登り。岩場が続く。 右の斜面上の白い部分は、地理院地図で噴気マークのある場所だが、 現在は噴気を確認できない。 このあたりでたしか、昼食のおにぎり2個を食べたのだったかな・・。

久住別れに到着

14:15 久住別れに到着。 三股山方向を見る。北千里ヶ浜は手前の小ピークで半分隠れている。 ここの標高が、約1640Mだ。 長者原のビジターセンターあたりの標高が1030Mくらいだから、標高差にして約600Mほど登ってきたことになる。とりあえずお疲れ様。

久住山を望む

久住別れより本日登る予定の久住山<1787M> この時は、久住山が最高峰と思っていたので、何としても登ろうと考えている。

星生山への登り

久住別れより、星生山方面への登り。見えている岩峰は最初のピーク。 登山道右の白い部分は、先ほどの地形図にある噴気跡。

久住別れ避難小屋の前のフラット部分

14:21 久住別れのすぐ下にあるフラット部分(火口跡)
避難小屋とトイレの屋根が見える。
星生山には最初から登るつもりでいた(硫黄岳の噴気を真上から確認したかったから)。 しかし時間から言って、15時過ぎにはここへ戻りたいなあ。 時間的にも中岳はあきらめる越到着として、久住山頂には立ちたい。 久住山~稲星山~中岳下の分岐から坊がつるへの下山ルートと進もう。 ダメでも、~白口岳~鉾立峠経由のルートもある。 坊がつるまで下ったころには、日没もやむを得まいな・・・。 いざとなれば、ビバークしてもよい。死にはすまい。 この時はそんなことを考えていた。 何しろこの好天だ。峠だというのに風も全くない。予報でも今夜~明朝の降雨もあり得ない。まず、目の前の星生山へ登ろう。

西千里ヶ浜一望

14:31 星生山手前の岩峰を登りきると、西千里ヶ浜が一望される。その先は牧ノ戸方面だ。 まだ日も高い。

岩くぐり

14:35 登山ルートは、この岩の間をくぐっている。ややビビる。

硫黄山見下ろし 硫黄山見下ろし② 硫黄山見下ろし③

14:43 尾根部から硫黄山がよく見える。文字通り、硫黄色となっている。

一枚の絵画_星生山南斜面の紅葉

14:48 これは一枚の絵画だ。 南斜面は美しく紅葉している。

星生山への最後の急登

14:48 星生山手前の急登(中ほどに先行する登山者が見える)。 踏み外したら大変だ。

星生山登頂

14:50 星生山登頂。 途中で追い越した2人組の登山者に撮ってもらった。 少し会話をする。 「これから久住山登って、坊がつるまで行く予定です」 一瞬、おいおい?という表情が浮かんだような・・・ 「夜景とか撮るんですか?」「いやぁ、そんな大したもんじゃあないですけどね」 「じゃあ、一泊して明日は?」「大船と三股山に行こうと思ってまして・・」 やれやれ・・

硫黄山越しの北千里ヶ浜

14:58 山頂から硫黄山越しに北千里ヶ浜を下に見る。 その先に坊がつるの草地がわずかにのぞき、さらに向こうは大船山と平治山まで見渡せる。 贅沢な景色だ。

頂上標識と久住山

15:16 牧ノ戸へ戻るという2人の登山者と別れ、山頂を後にする。

真っ赤なドウダン

尾根伝いには下りずに、最短コースで急坂を西千里ヶ浜へ下る。 低木の間の登山道は崩壊気味で悪路だ。 何度もバランスを崩してはずり落ちる。

急下りの草紅葉

紅葉は美しいのだが・・・ ミヤマキリシマなのか、それともドウダンなどか・・・? こんなにも、あかあかとなるのだな・・。

旧火口跡に残る紅葉

15:16 斜面途中に特に紅葉が残っている部分は、旧火口。

旧火口越しに久住山

地形図に凹地として表示のある部分だ。 火口の内側には巨石がごろごろしており、南面していて日当たりもよく、その分紅葉が遅いのだろう。今まさに赤々となる。 前方奥には久住山

前方に肥前ケ城

15:17 前方は、溶岩が高原状に盛り上がった山塊と思われる。 後に購入した案内図には、「肥前ヶ城」とある。

大岩の間の紅葉

箱庭のようで、なんとも美しい・・・

旧火口全景

15:24 先ほどの紅葉が美しかった凹地。 こうして少し離れると、結構な大きさの火口であることがよくわかる。

15:24 急坂を降りきると標識がある。 急がなければ。

一面のすすき野

15:27 丘を覆うススキの大群落。 絹のごとく白金のごとく輝いている。 しばし足を止めてしまうほどの神々しい光景だ。

久住別れへ

15:27 久住別れへと急ぐ。 この間、結構な人数の登山客とすれ違う。牧ノ戸に降りる人たちだ。 逆方向に歩く私に、怪訝そうな視線を向ける人もいたのだろうな。

それへ向かって登っていく

15:53 久住別れ下の避難小屋到着が15:34。 小屋の中を確かめるも、とても泊まれるようなところじゃないな、とこの時は思っていた。 小休止後、久住別れから久住山頂を目指し登り始める。

中岳分岐を右へ

ほどなくこの中岳分岐。 右へ右へと登ってゆく。 避難小屋前で2、3人登山客を見たのが最後だ。 もはや登山客の姿はどこにもない。

星生山見返し

16:01 山頂手前の尾根下の分岐から、先ほど登った星生山を見返す。 登山で16時といえば、下山し終わっている時間と相場が決まっている。 それがまだ山頂手前というのだから、坊がつるまでは降りられないかな・・と思い始める。 とりあえず、久住山頂を極めよう。

久住山山頂 1786.5M

16:14 久住山頂。 さてこれからどうしたものか・・・ あまり迷っている時間はない。急ぎ判断を下さなければ・・。 とりあえずこの先の稲星山まで行き、そこから白口岳経由のルートをとるか、 中岳下の分岐から、破線ルートだが坊がつるへのルートをとるか考えてもいいだろう。 右ひざが少し痛くなってきたな・・ 既にポカリスエットは残り数口分しか残っていない。

三俣山と北千里ヶ浜

三俣山方面。寒くなってきた。

中岳と手前の火口を見る

中岳。山影が・・

噴気を上げる硫黄岳

硫黄岳を遠望す。だいぶ暗くなってきた。

稲星山と東千里ヶ浜

中央は、東千里ヶ浜。右が稲星山。奥にうっすら見えるのが大船。
東千里ヶ浜の半分を山影が覆う。

夕闇迫る稲星山山頂

16:54 稲星山山頂。
喉の乾きが著しいが、飲み水がないのだ。

相当に暗くなる

もはや馬鹿げた時間になってきた。

荒涼の稲星山

荒涼の稲星山。東の分岐へと下る。

稲星山東の分岐

分岐に到着。

白口岳

疲れた。なによりのどが渇いた。
坊がつるまで降りたい。水をがぶ飲みしたい・・・。
けれど、正面に見える白口岳を越え、鉾立峠をへて坊がつるに下るのはしんどすぎる。破線ルートながら、中岳下の分岐から、直接坊がつるへ下ることはできないものか・・・

草むらにへたり込む

へたり込む。
もう、足が痛い(つま先に激痛が走り出した)。

中岳下分岐

中岳下の分岐まで来るが、なんと直接坊がつるへ下るルートはロープで閉鎖されているではないか。しかも「土石流多発のため通行禁止」だと。

ロープをくぐって降下を試みるが敗退

雨も降っとらんし、土石流が起こるはずもないだろ。
無謀にもロープをくぐり、70〜80M降下するが、ルートは荒れ果て、急斜面でブッシュがきつく、もんどりうって転倒してしまった。これではとても降りられない。敗退が確定する。
仕方なく登り返した。

月が出てくる

やっと中岳下分岐に戻り着く頃には、月が出てきてしまった。
日は完全に落ち、夜のとばりとなる。
今日はよく晴れた。その分、急速に冷え込んでくる。

残照

これで今夜は、まともなところでは寝られないのが確定する。
こうなれば、久住別れの避難小屋まで戻るしかない。 東千里ヶ浜を縦断し、久住山頂手前の分岐まで登り返した後、暗闇の中を久住別れまで下るほかあるまい。 どんどん暗くなるから、直ちにヘッドライトとダウンジャケットを取り出し装着する。

残照を背景の久住山

残照を背景の久住山。 やっとここまでたどり着くのは、18:15分となっており、ヘッドライトを頼りになんとか避難小屋へ到着するのは19時近くという、燦々たる結果となった。

東千里ヶ浜を泣きそうになりながら彷徨するわけだけれども、言い訳する気はないが、この燦々たる結果にも、多少の確信犯的要素はあった。
一つは雨の心配がなかったこと、二つ目は日が暮れて冷え込んだとはいえ比較的気温が高かったこと、そして三つ目はビバークの準備をしてきたことである。
痛恨のミスといえば、何を勘違いしたか水を持ち上がらなかったことと、靴が合わずに両足のつま先に激痛が走って思うように歩けなくなりつつあることだ。
水のないおかげで、せっかく持ち上がったクッカーも食料も食べることができなかった。本当に腹が減るほどつらいことはない。アメで凌ぐ夜となった。

⇒第二日目へ

jadwigalareve.hatenablog.jp

→jadwigaの研究室