穂高連峰縦走 <第三日目 後編>

第三日目、後半戦。大キレットに挑む。

穂高小屋をAM10:19に出発する。

標高差300のクライムダウン

中間地点の南岳小屋までの所要時間が3時間20分、南岳小屋から槍ヶ岳山荘までが3時間35分、合計7時間。 これは届かないかな・・・ 朝が遅すぎた。

槍までの遠い道のり

まず「A沢のコル(標高約2800)」まで、およそ300Mのクライムダウンだが、 途中の難所「飛騨泣き」を攻略する必要がある。 そして「長谷川ピーク(標高2841)」。 さらに大キレット最低コル(標高2748)から、南岳直下の梯子場の連続する登り返しを経て、やっと南岳小屋へ到達する。 一つ一つクリアしていくしかない。

小屋からの下降は恐怖の連続だ。 何が怖いかといって、自分の滑落も恐怖だが、下にいる登山者に石を落としたらどうしようという恐怖心が大きい。 写真も撮っておらず、急斜面はガレにガレていた。

途中、滝谷をのぞくポイントがある。

滝谷を覗き込む

まさに「鳥も通わぬ」滝谷だ

この滝谷を登るクライマー達もいる。自分はごめんだ。

高度感ある撮影ポイント

降りてきた方向を見返すと、頂部に小屋が見える。 よくあんなところに建てられたものだ。 ※ちなみに北穂高小屋は富士山以外の営業小屋としては最高標高に建っている。

北穂高岳見返し_最上部に小屋が見える

Hピーク方向から登山者が登ってくる

本谷カール見下ろし。涸沢にしろ岳沢にしろ、氷河の削ったカール地形だ。 雪の残る美しい風景だが、ここに過去いったい何人の滑落者が横たわったことか・・・ 家族・友人から救助にかかわる方々まで、遭難は痛ましい出来事以外の何物でもない。 滑落しては絶対にいけないのだ。

信州側本谷カールには雪も残る

不安定な斜面の下降が続く

常念岳

鎖場も出てくる

鎖場を下った先に、大きな岩峰が見えてくる。その先が「飛騨泣き」だろうか。 Hピークも見えているが、A沢のコルまではさらに大きく下るようだ。

鎖場の先の岩峰

はるか下方に先行者の姿が見える

延々とつづく岩場と鎖場_一瞬の気の緩みも許されない

長谷川ピーク

ルートを探る登山者ら

飛騨泣き

10M程の下り

飛騨泣き見返し

飛騨泣きの全貌

飛騨泣きと北穂

A沢コルへ下降する

A沢コル近づく_下方に木製デッキが小さく見える

南岳_地層の連続が見てとれる

A沢方向に笠ヶ岳遠望

これでもかという険しさ

振り返って見上げる_胸の悪くなるような下降はまだ続く

Hピーク手前の小ピーク

長谷川さんに取り掛かる

クライムアップ

ピーク手前の変な岩

長谷川ピーク到着。PM12:26となっていた。

長谷川ピーク(標高2,841)

長谷川ピークから最低コルまで約100Mのクライムダウン。 下の写真だともっと下るように見えるのだが・・・

直下に最低コル(オレンジ色のウェアの登山者が手前のピークに見えている)

最低コル到着(PM12:56) 標高2,748M

ここから南岳小屋へ登り返しだ。

尖ったところの右側が獅子鼻だろうか・・

どのようにすればこうした地層の何層にもわたっての露頭が見られるのか。 産総研のシームレス地質図で見ると、槍ヶ岳の北の黒部湖にかけての広いエリア(くすんだピンク色)は古生代など5億年も前の古い火成岩地層が分布する。槍ヶ岳(地図の緑色)はピンポイントで変成岩が露出しているが同様に古い地層だ。 だがここ大キレット含む穂高連峰周辺だけは、6500万年前~数万年前までの比較的新しい火成岩帯となっている(下図中央の「+」マークのあたり)。

日本シームレス地質図より

新しいといっても6500万年前といえば、日本列島はまだ大陸の一部を成していたにすぎない時代だ。 巨大隕石衝突というイベント(いわゆるグレートリセット)が起こった頃の話で、それ以降の地層はすなわち哺乳類時代の地層ということになる。 解説によれば、デイサイト・流紋岩のほか、大規模火砕流堆積物が大きな圧力で岩になったもの等で構成されているという。 これまで自分が掴んで登り降りしてきた岩はそうした由来のものだ。 一方眼前には大キレット300Mの断面に、それらが人間よりはるかに大きなスケールで積層している。

さて人間はその積層断面の一段一段を登っていく。300Mの標高差も一つ一つクリアしていけば終いには頂上に立つことができるのだ。

1段目の梯子の登り終え
さらには鉄梯子が数千万年の岩塊にアンカーされている。ありがたいことだ。そうでないと人は簡単に登れない。

登り始めてから一つ目の梯子を終え、最初のテラス状部分に出ると、その先の梯子が見えてくる。

登り返し2つ目の梯子

これも長梯子_慎重に登る

この頃から天気が怪しくなる。

ガスがかかってきた

何とか大キレットを登りきると急に平坦なザレた台地になる。 ますます霧が濃くなる中、突然山荘の赤屋根が見えた。

南岳小屋到着。PM14:17

南岳小屋(標高約2,975M)到着は、今朝穂高岳山荘を出発してから7時間47分を要した。 まだ14時半前なので、遅くはなるけれどこのまま進んで槍ヶ岳まで到達することはできる(所要3時間半なので18時到着想定)。 日もまだ長いわけだし、疲れはあるが歩けないほどでもない。

だがやめておく。 なんとなくそういう答えが聞こえてきた。 一つにはこの山行の核心部はコンプリートしたということ。 もう一つには雨が降り出しそうなことだ。 この静かな小屋で、山行最後の夜を過ごしてもよかろうと・・・

小屋で受付し急いでテントを張る。 作業途中にはたして雨は降り始めた。

テントを張り、荷物を中に放り込んで、横になって体を伸ばすころには、激しい雨音と強い風が吹いて来た。 運がよかった。

南岳小屋とテン場

そのまま2時間もぐっすり寝たようだ。 気づくと雨はすこし小ぶりになってきていた。 しばらくゴソゴソしていたが、山荘の様子を見に行こうとテントを出る。 まだ雨は残っており霧も濃い。 山荘で飲み物があったので購入しテーブルでくつろぐ。 入れ替わりに何人かの登山者がくつろぎに来る。 そのうちの一人が自前のウイスキーをやり出したので、ちょっと話しているうちに盛り上がり、 1時間も登山談義となった。雨が止み夕日が差してきた。 そのうち外がザワザワとしてきた。霧が晴れてきたのか! 時間は・・・18時をとっくにまわっている。 カメラを持って外に出る。小屋から10M程奥穂側に登れば展望ポイントだ。

そこには・・・

青空の見え始める奥穂高岳方面
上写真左端の展望ポイントに人が見える。

北穂高岳

キレットを覗き込む。

この高度感!

頂上に北穂高小屋が見える

涸沢側の雲海

薬師方向か

手前に西穂高岳、奥に乗鞍岳、さらに奥は御岳山

雲に遊ぶ

穂高の絶景に展望ポイントから歓声を上げる登山者ら

夏雲と常念岳

北穂池から横尾本谷へ一筋の滝が流れ落ちている

雲が完全に晴れ、昨日今日と歩いた穂高連峰の全貌が姿を現す。

御岳・乗鞍から西穂・ジャン・奥穂・北穂、中央手前が大キレットから長谷川ピーク

右手前に最後に登った岩壁の一部

全部見える。

ジャンダルム・ロバの耳・奥穂本峰・滝谷ドーム・北穂南峰/北峰

夕映えの穂高連峰

雲海の右股谷と笠ヶ岳

獅子鼻展望ポイントからの大キレット_目もくらむ高度感

なんという険しさ、そしてなんという美しさ。

この山々を今は静かにかみしめる

空が焼け、日が沈む

こうして第三日目は暮れる。