
あそこの避難小屋はとてもいい。ただもう2回も行っている。

この山域で残っているのは小川谷林道ルートだ。
日原から酉谷山へ小川谷経由で直登するルートで、奥多摩側からのアクセスがよろしいが、
2023年5月に林道の崩落があり通行禁止となった。

ただ、林道を通っているログは数多くあるし、自己責任ではあるが調査も兼ねてこのルートを進む意義はある。
駄目なら引き返せばよろしい。

やはり熊倉山へ行くか・・・
酉谷山から熊倉山を含む山域は秩父でも「魔境」と言われているエリアだ。 とにかく遭難が多い。死亡事故例も複数レポートされている。 これはしっかり下調べをしなければ・・・
ネットで「酉谷山、熊倉山」などと入力するといくらでも山行記録は出てくる。 便利な時代だ。 熊倉山へのルート上、酉谷山のすぐ北側の「小黒」と呼ばれるピーク周辺では道迷い遭難が多発している。
一方熊倉山から北側、秩父側へ下りるルートは複数あるものの、 「城山コース」というのが一般的で、他のルートは荒廃が進んでいるとのことだ。
だが地理院の地形図を見ていると、熊倉山山頂から秩父鉄道終点の三峰口へと北へ伸びる尾根がある。

この「聖尾根」は、登山地図上に登山道表記が無い(地理院地図には途中までルートの記載がある)。 ただ検索すると、ちらほらと山行記録が確認できる。
それによれば、とにかく危険極まりない急峻な尾根であるようだ。 しかも、どの山行記録も<登り>で使われているものばかりで、 <下り>での山行記録が無いのである。 こうなると俄然、そそられてくる訳だ。
かくてルートは決した。
■小川谷を詰めて酉谷避難小屋に1泊、翌日酉谷山から熊倉山を経て聖尾根を下降し三峰へ至る■

12月9日、10日の土日を山行日とする。天気予報は快晴予想。予備日は無いが、1泊2日で問題なく縦走して帰ってこられるだろう。
例によって単独行、小屋泊りではあるが訓練を兼ねテン泊装備を背負っていく。
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<第一日目 2023.12.9. 土曜日>



天気は申し分ない。最初はロードだ。



「深山由谷の境地」!!!
これも「深山由谷」× → 〇「深山幽谷」だよね。
他の文語も大丈夫かな・・・
先へ進むと鍾乳洞だ。









しばらくは右岸をゆく。
古い橋を渡る。ここでカロー沢を右から合わせる。
橋の向こうを右手に入る道がついていた。進める道かは知らず。左手へ進む。

林道を先へ進むと、見えてきましたよ、問題の個所が。











見上げるとヘリだ!
進んできた林道の右手の尾根上からやって来て、私の頭上を通り過ぎ、小川谷を挟んだ反対側のタワ尾根の方へ飛んで行く。
そしてタワ尾根の小さな支尾根と枝沢を一つ一つ丹念に探るように移動している!
これは遭難事案に違いない。誰かが行方不明になっているのだ・・・
しばし呆然と見ていると、今度は大きく踵を返してこっちへ飛んで来る!
そして私がこれから廻り込もうとする尾根の向こう側まで来て、ホバリングしているではないか。

やがていったん音は遠ざかる。 ゆっくりもしていられないので先へ進む。
支尾根を廻り込むと、左手の小川谷に向け何となく斜めに下りるような踏み跡がある。
この辺りでは、林道と小川谷の落差は100M以上となっている。
急峻な七跳尾根の先端を、小川林道は回り込むように伸びている。

この林道に車が来なくなってどのくらい経つのであろう。 それから今日まで、この林道に何兆枚の落ち葉が降り積もったのであろう・・・。
一つ先の「犬麦谷」にへ向け、林道はヘアピンカーブよろしく大きく山側に入り込む。
すると立派な砂防工事の跡が見られる。

犬麦谷を廻り込む。

林道終端部の広場のようになった場所に近づくと、ヘリの爆音と風はMAXに。
見上げると東京消防庁のヘリだ。
隊員が一人降下してきたのか、広場中央に立っており無線交信しているように見える。
youtu.be 隊員が近づいて来たので「いったい何ごとですか?」と聞くと訓練中だという。
なぁんだよ、訓練か。遭難事案でなくてよかったが・・・、普段見慣れぬ光景と爆音に、こちらは唖然とするほかない。
「どうぞ安全に登山を楽しんでください」と声をかけてもらう。
こちらも帽子に手をかけて挨拶を返す。

この広場部分で小川谷林道は終わりだが、右手へはさらに「七跳林道」が続いてゆく。
そちらの林道も崩壊が著しいと聞いている。
AM11:34、広場を出発する。ここから登山道となる。
ヘリの訓練活動に遭遇し、興奮冷めやらぬところだが、 小川谷ルートは、ここからが本番だった。
まず、いきなりこれ。


これはまだ序の口だった。
ここからしばらくは急斜面のトラバースとなる。斜面の角度はほぼガケといった感じで、巾20cmにも満たない踏み跡が薄くついている。
踏み跡と言っても落ち葉が厚く堆積した、その上が少しへこんでいるような頼りないものだ。 カラカラに乾いた落ち葉は極めて滑りやすい。
左下は100M以上切れ落ちている。 一旦滑ったら一気に下まで行く。
その恐怖!
自分が転がっていく姿が映像のようにイメージされる。
落ちたくない。
ストックで足元の落ち葉を掃き取りながら一歩一歩足場を固めて進むので、恐ろしく時間がかかる。
それでも落ち葉の斜面を100M滑り落ちるより、はるかにましな事だ。
東京消防庁の世話になる訳にはいかないのである。
上写真の様な回り込みでも、ひざがガクガクするような恐怖を味わいながら進まねばならない。
振り返ると部分的に石垣が残っている。一応登山道ではあったわけだ。



もう帰ろうかな・・・
急斜面のトラバースは700~800Mも続いた。


ここは谷底が少し広がった開けた空間だ。平らな地面に立つことができて心底安堵する。
左手が「滝谷」。右が「悪谷」。正面が「酉谷」だ。
ここからは正面の酉谷を沢伝いに進むほかなくなる。
右岸側に石垣などの痕跡がたまにあるが、崩壊が進んでいてとても歩けない。
沢伝いの遡上の方がまだましなのだ。
両側は次第に切り立ってくる。ゴルジュに近い地形だ。


大小の落ち込みを越えてゆく。


倒壊した建物のようだ。
登山地図にあった「旧酉谷小屋跡」というのがこれだろう。

枯沢になって以降、斜面はどんどん急登となる。
夕日が差し込んでくる。
秋深まるこの谷は、美しくなる。
最後はキツいキツい急登をとにかく登る。 登山道はもうどこにあるかよくわからない。
上の方に針葉樹の濃い緑色が見えてきた。
すると右手に、いきなり小屋の建屋と石垣が見えてくる。

小屋には3人ほど先客。あとでもう一人、ルーマニアからの留学生も来た。
本日の行動終了だ。一服してからゆっくり夕食を準備しよう。

小川谷ルート見くびるなかれ。神経をすり減らすトラバースだった。
第一日目の稿、了。