穂高連峰縦走 <第二日目 後編>

第二日目の後半戦。

天狗のコル出発は12:00頃だったと思う。20分も昼食休憩してしまった。

西穂山頂から4時間もかかったのだし このままでは奥穂高岳着は16時を軽く過ぎるだろう。 まだ雨は降っていないが、天気が崩れてきそうで少し焦る。 悪路ではあるが天狗のコルから岳沢小屋へ下るこのコース唯一のエスケープルートもある。

岳沢方面への矢印

だが下りで使うにはリスクが高いコースだし、ここで撤退という選択肢は自分の中ではなかった。

進むぞ。

ジャンダルムへ

天狗のコルの標高がおよそ2835m、ジャンダルムの足元がおよそ3135mだから、 ちょうど標高差300m登り返す。

摂理により板状の岩が積層した斜面を登る

樹木どころか草もろくに生えない岩場を30分ほど登ると、 両側が切れ落ちた「蟻の戸渡り」的な場所に来る。

「蟻の戸渡り」的な・・・

渡った先も険しい岩場が上へ上へと続く

あまり下を見ないように慎重に進む。

渡り終えて振り返る

そうしてピエールは蟻になった。

急峻な斜面を這い上がって行く

ティラノザウ・・

振り返って下を見ればこんな感じ_反吐が出そうだ

まだまだ上がある

岩場のトラバースの先には・・

狭い谷状のルンゼとなる

ルンゼを登りきる

霞んで見えるこれは、怪鳥ガッパの巣かよ

急斜面ではあるが足掛かり手掛かりはある

ガッパの背びれか

一瞬の青空に、はるか登りが続くことがわかる

振り返ると・・・本当にヘドが出そうだ

こんな岩や、

あんな岩を越え、

着実な三点支持でぐいぐいと登っていく

足元が霧で下が見えないというのは、あまり気分の良いものではない

雨が降ってきた

上方の岩の上にUFOが止まっているのか・・

UFOを近くで見るとこんな感じ

見事なまでの岩の造形

登りきると霧の向こうに巨大な岩塊が

ジャンだ

ジャンの根元から長野側を見る_吸い込まれてしまいそうだ

ここで本降りになるという。

奥穂へは右の長野側を巻くのだが、その前に急いで雨具を出し、荷物をデポしてジャンに登る。

まずは左へトラバース_イワギキョウとジャン・・の文字

こんにちは、黒天使さん

ジャンダルム_標高3,163m PM14:25

ジャンピエール、ついにジャンダルムへ登頂す。

何だ、この顔

本来、輝かしいこの功績を天高く叫び上げたいところだが、土砂降りという。 写真も3枚しかない。 早々に荷物のところへ戻ることに。

南側を見返すと、天狗のコルから300m登り切ったところの岩塊がかろうじて見られた

ジャンの根元まで戻ってきた。

ここからチェーンを手に4Mほど岸壁を登り、そこからジャンダルムを右へ巻いていくのだが、 これが結構危険なトラバースなのだ。落ちればおしまい。しかも雨で岩は濡れている。 できれば乾いた岩をトラバースしたかった。

ジャンを巻き終わる_怖かった・・

そしてもう一つの核心_ロバの耳

ロバ耳の登りに取り掛かる

登りきったところ_西穂側からの登りはまだマシだ

ジャンは霧に包まれてゆく。奥穂からはもう見えまい。山頂に黒天使が見える。さらば天使よ、きっとまた会いに来るからな。

ついにロバ耳のクライムダウンへ

さあロバ耳を下降する。

実は今回山行のクライマックスはここの下降部分と考えている。 大キレットよりも馬ノ背よりもロバ耳の下降が最もリスクが高いのではないかと。

よりにもよって、依然土砂降り。 だが戻ることもできない訳で、腹は据わってきた。 両の頬と両の太ももをバンバンと叩いてから岩に取り付く。

ちなみにこのような連続する岩場で、私はグローブは着けない。 軍手もはかない。あくまで素手で、岩の感触をしっかりと確かめながら登攀する。 命がかかっているから、素手の感触を信用することに決めていた。

だが雨で気温が下がり手もかじかんでくる。 慎重に、着実な三点支持で。

ロバ耳の下降_登りよりもはるかに恐怖心が増す

ここで写真は途切れる。 雨で写真どころではないから。 ロバ耳をなんとか攻略し、急なガレ場を登り返すと、馬ノ背が見えてくる。 研究はしてきたものの、緊張と、天泊装備の17~18kgの荷物を背負ってここまで、疲労もピークだ。

ずぶ濡れになりつつウマノセに取り付きながら、「なんでこんなことしてるんだよ」が何度も何度も口から洩れる。 もう無茶苦茶だが、冷静さを失うわけにはいかない。

ナイフリッジに股間を引き裂かれそうになりながら馬ノ背を登り終えた。 足を滑らせれば即死だったがそのような事にはならず、何とかなった。

ここまでくれば奥穂高岳まであと一息だ。 気を抜くわけにはいかないが、山頂までは危険個所はない。

奥穂高岳_標高3,190m PM16:14

何だ、この顔は

よくここまで来た。 考えてみたら、奥穂まで誰にも会わなかった。 土砂降りの中でお宮のある台座まで上がって、きゃあきゃあはしゃいでいると、 中高年の登山者が前穂高方面から到着したので、少しだけ会話した。 せっかくの山頂だが天気がこれなので早々に切り上げ、穂高岳山荘へ向かう。

実はここから山荘まで約30分の道中、小屋が真下に見えるところからの下りが、 一番の危険個所なのかもしれない。 ハシゴ場と鎖場が連続する垂直の下りだが、雨で滑りやすい。小屋の目の前で死ぬのはごめんだ。

かなり時間を使って、何度も「慎重に、慎重に」と自分に言い聞かせ、 やっと山荘の扉を開けたのは、PM17時に近いころだ。

この大雨で幕営する意気地はすっかり萎えてしまい、小屋泊を申し出る。 もちろんこの時間なので素泊まりのみの受付だ。小屋は混んでいた。

雨具は着ていても中までしみこんで全身ずぶぬれ状態だ。 直ちにウエアからリュックから登山靴までをすべて乾燥室に持ち込んで乾かす。

靴の中敷を乾かしながら、今日の無茶苦茶な一日を思った。 この土砂降りの中、死なずによくたどり着いたな~。ロバ耳だのウマノセだのを越えて・・・

一つだけ幸いだったとすれば、風がなかったことだ。 強風が吹いていたら厳しかっただろうな・・・

一気に疲労感が襲ってきてひたすら横になりたかった。食欲もない。 飯も食わずに19時半ごろ就寝。

明日もハードな一日になる。

穂高連峰縦走 <第一日目>

プロローグ

穂高連峰を縦走する。

今回の山行はこれまでの自分の登山経験では最も危険度が高い。 西穂高~奥穂高~大キレット槍ヶ岳まで、北アルプス3000峰を結ぶ国内登山道最高難度のルートだ。 ルート周辺ではシーズン明けから遭難が多発し、死亡事故が既に数件起きている。 だが研究は十分してきたのだし、二年ほど前から行くのは決めていたのだ。 これまでの私の登山の集大成として挑むべき機は熟した。

例によって単独行、全天泊。

天気の様子をみながら、2023年8月16日を出発日とする。 コース概要は以下の通りだ。

第一日目:東京⇒大正池⇒西穂高山荘

第二日目:西穂高山荘⇒西穂高岳⇒ジャンダルム⇒奥穂高岳⇒奥穂高山荘

第三日目:奥穂高山荘⇒涸沢岳北穂高岳⇒大キレット⇒南岳⇒槍ヶ岳山荘

第四日目:槍ヶ岳山荘⇒槍ヶ岳上高地⇒東京

今回山行の核心は言うまでもなく第二日目と第三日目。 特に第二日目の西穂高岳から奥穂高岳へ抜けるルートは、 間ノ岳・天狗ノ頭・ジャンダルム・ロバの耳・馬ノ背など難所に次ぐ難所が待ち構えている。 二日目も北穂・大キレットを越えてゆく危険で長いルートとなる。 緊張感と強い決意をもって臨む必要がある。

必ず歩ききって見せる。もちろん生きて帰るつもりだ。

<第一日目> 2023.8.16.(水)

早朝に自宅を出発して立川からあずさの旅となる。 天気はあまりよくない。 松本AM9:38着。 松本鉄道に乗り換え、新島々AM10:40着。 そこからアルピコ号で大正池バス停に着くのがAM11:46。 身支度を整えて大正池を出発したのは12時過ぎとなった。

AM12:06大正池

西穂登山口へは一つ先の帝国ホテル前バス停が近いところを わざわざ一つ手前で降りたのはもちろん、大正池梓川沿いの風景を楽しみたかったからだが、 この頃にはすでに土砂降りに近い状態で景色どころではなかった。

雨の田代池あたり

写真もろくに撮らずに田代橋を渡り、登山口に到着したのが12時35分。 ここから西穂山荘までコースタイムでは3時間50分、標高差で860M以上登る。

西穂登山口

PM12:40。雨だが気合を入れて登り始める。

西穂中尾根は山荘まで樹林帯だ

ちなみに大正池から西穂までのルート上には給水個所はない。 途中「宝水」という水場があるが、水質を心配する情報があったので、 家から2.5Lを運び上げることに。 せめて大正池ホテル前に給水個所でもあればと思うのだが、誰かご存じないだろうか。

西穂山荘まではそこそこの急登なのだがよく踏まれているコースで登りやすい。 登り苦手な私にしては早いペースでPM15:25に山荘到着となる。 緊張でアドレナリンが多く出たのだろうか・・ 2時間45分で登ってきた。

西穂山荘到着

雨が止んだので急いでテントを設営し、山荘1Fの食堂でコーヒーをいただくことにした。

天場はお盆だというのにほんの数張りのみだ

地形図と登山地図を出して翌日のルートを再確認する。 明日は早くも今回山行のクライマックスだ。 エスケープルートも無し、難所の連続する厳しいルートを歩ききるほかない。 テントに戻り早めの夕食を準備して食べる。 あとはやることがないからさっさと寝る。 まず一番目の試練は早起き⇒早出。 どんなに遅くとも朝5時前には出発しなければならない。 そのためには午前2時30分過ぎには起床する必要があるのだ。 朝の弱い私だが、今回ばかりはこの掟を守る必要があった。 まだ18時前だが寝袋へ。

眠るんだ、眠るんだ。

穂高連峰縦走 <第二日目 前編>

第二日目 前編

泣く子も黙るジャンダルム。。。そんな俗諺はどこにもないが、勝負の朝が来たようだ。

まず最初の勝負は「早起き」ということになる。 とにかく朝が苦手だ。 今回ばかりは普段の登山と違うので2:40起床。テントを撤収し朝食やトイレを済ませて、出発はAM4:40となった。 自分にしたらこれで登山早出の最高記録だが(4時台出発は初)、ほかの人はとっくに出ている。

上高地は分厚い朝霧の中だ
あたりはまだ薄暗いがヘッドライトまでは必要ない。 緊張感はいや増すばかりだが、それを逆手に自らを奮い立たせて進みはじめる。

西穂丸山を過ぎてからなかなかペースが上がらず、 独標手前でもう1時間が過ぎてしまった。

まだ独標手前~少しずつ険しくなる

独標 AM5:50

独標からはこれから進む西穂本峰方面のほか、ジャンダルムや奥穂高岳、釣り尾根などが見えている。

ピラミッドピーク・チャンピオンピーク・・・西穂本峰は見えていないのか・・・
ここからジャンダルムや奥穂山頂まで見えている

ピラミッドピークへ

独標から進み10峰で振り返る。 独標の下に今朝いた山荘の赤屋根が小さく見える。

独標と奥に焼岳・乗鞍

「真下に降りる」という感じの岩場のクライムダウン。本日のコース中ではまだ「前菜の手前」のはずだが。

これを下るのね

振り返るとだいぶ登ってきたようだが・・・

見上げればまだまだ偽ピークの連続のようでもあり・・・

西穂高岳山頂_標高2,909m AM7:32

ここまで2時間45分とコースタイム未満で西穂高岳登頂を果たしたが、この先が本命なので感慨に浸っている暇はない。それにもうガスに覆われつつある。出発することに。

西穂山頂を後にする AM7:47

P1と有名な看板 AM7:54

ここからが本当の戦い

激しいUP/DOWNが始まる

次々と強そうな岩峰が見える

最初の鎖場_クライムダウンだ

クライムダウンの後のトラバース

一瞬の気の緩みも許されない。浮き石の一つでも踏んだらあの世行きだ。一か所一か所の岩場ごとにもどしそうになる。

岩岳。もう間ノ岳に着いたのかと思ったのだが。

岩岳 AM8:20

ガレた急下りの連続する西穂~間ノ岳

間ノ岳全貌_危険な南面の登り

浮石だらけだ

踏み外せば最後だ

間ノ岳到着はAM9:26。前後のルートは浮石だらけの極めて危険なルートで、今シーズンすでに遭難事故で複数の方が亡くなられている。

間ノ岳山頂 <標高2907M>

山頂標識らしきものはない

前方に天狗ノ頭を望む

かの有名な逆層スラブ

岐阜側の谷を覗く

矢印の先_下が見えない

途中まで降りて振り返る_一応ロープが垂らされている

先ほどの岩場の後ろに山影が・・・

一瞬の晴れ間に見返す間ノ岳

恐ろしい下りはつづく

間ノ岳北面の全貌

霧の晴れ間に間ノ岳北面の全貌が現れる。どれほどエグい下降であったかを思い驚愕する。本当に自分はこれを下りてきたのかと。

本当にこれを下ってきたのか

間ノ岳天狗岳の間の最低鞍部である間天のコルまであと一下りのはずだが、覗き込んでも下が見えない。 足元がえぐれているのか?そしてそれをまた下りるのか。

真下にあるはずの間天のコルが見えない

天狗ノ頭を望む_山頂標識の柱が見える

見返して矢印がみえるんだからそこを下りてきた

間天のコル到着はAM10:15頃。押し気味だ。行動食をとる。

逆層スラブに取りかかる AM10:26
ここまででも十分に恐ろしい思いをした。気を張ってここまで来られたが、ここからも連続した緊張を強いられる。

スラブとの格闘で写真を撮っていない。AM11:08天狗ノ頭到着。

天狗ノ頭 <標高2909M>

向かう先は霧の中に

天狗からの下り

下り途中の小ピーク

岩をまたぎ越え、霧の向こうへ入って行く

前方にジャンダルムへの長い登りが見えてくる

天狗のコル到着 AM11:38

下りてきた岩場を見返す

遭難の多い下り斜面

西穂からここ天狗のコルまでを地形図で見ると、直線で1Km足らずだ。 この距離を4時間近くもかかってしまったが、コースタイムでも3時間が設定されている。 緊張の連続で、気を抜ける場所が一つもないというプレッシャーがかかり続けてきたのだが、 ここから約300Mを登り返し、ジャンダルム・ロバの耳・馬ノ背といった核心部がこの先に待ち受けているのだ。

待っていろ、ジャンダルム!

ピエールさんの山菜日記 2024③

2024年3月9日(土) 天候:はれ 気温2.6℃(AM6:00)

 今年3度目の山菜行。 先週に引き続きクレソンを採りに行く。今度は成木川近辺だ。 それと先月まだ小さかったセリの様子も見ておきたい。 岩倉街道をひた走り、目的地に到着する。主な狩場は2か所だ。 まずセリの様子を見に行く。 2月にバッケ(フキノトウのこと)を摘んだあたり。 昨年はここでセリをいただいたのだが・・、まだ小さいなぁ・・。 何しろ今週は東京で二度も積雪があったのだ。 気温も低い日が続いたので、再来週ぐらいが採り頃だろうか。

240308AM6:30 国分寺の自宅2階ベランダから

 あきらめて土手を歩いていると、「カンゾウ」が出ているでないの。 まだ小さいが、このくらいの方が葉も柔らかく食べられる。 さっそく収穫する。 茎の下の部分にカッターを入れて摘み取る。 カンゾウ(ヤブカンソウか)はこの白い部分が特においしい。おひたしにすると独特のぬめりがある。 サラダにしても何の問題もなく食べられるが、若干のシュウ酸が含まれるとか。 一度の食べ過ぎはよくないのだろうが、春のこの時期に二、三度食す程度は全く問題ない。 それどころかまるでクセのない野草で、葉も茎も一茹ですると本当に柔らかくおいしくいただける。 何本かクレソン鍋にも入れてみたが、完全にネギの替わりになる。

茹でたヤブカンゾウ 茎の白い部分が太いのが上等品

 続いて別の河原に降りる。 こちらでも新しいセリの群生地を見つけたが、まだもう少し成長を待つこととした。 代わりにクレソンの群落も見つけたので収穫して帰る。 二度目のクレソン鍋を堪能した。

 翌日曜日の夕食は焼き魚(鰆=サワラ)、菜の花の御浸し、さつま揚げ(おろしポン酢で)、粕汁、 そして茹でカンゾウのマヨネーズソース添えと、春を満喫するメニューとなった。 ソースの作り方は、マヨネーズ・醤油・納豆についてくる黄色のネリガラシをよく混ぜ合わせてディップ状にして出来上がり。

カンゾウ(手前)と菜の花の御浸し(奥)
とてもおいしかった。