8月19日、第四日目、早朝。
天気がいいぞ。

テン場からは槍も見える。

昨日と同様、小屋裏のピークに登り写真を撮ってもらう。

朝日に照り映える穂高連峰の全貌。一昨日・昨日と本当によく歩いてきた。

ふと常念岳方面へ目をやると、・・・奥で噴火しとるやないか!!

一瞬目を疑うが、これはどう考えても噴火だ。 だがどこの山?・・・白根山??
禍々しい噴火とは裏腹に、山々は最も美しい時を迎えつつある。





それにしてもこの景色は贅沢すぎる。 なんという絶景、なんという素晴らしい時間。 空気は澄みわたっている。
昨日、無理することなくこの南岳小屋で停滞して本当によかった。
AM5:41、出発する。

常念方向をもう一度見るが、どう考えても噴火だよなあ・・・
どこの山かわからないが草津白根であればニュースになってるはずだ・・

南岳斜面を登り始める。砂礫の斜面だ。


後でわかったことだが、位置的に南岳から常念の真後ろに見えるのは浅間山(2,568M)だった。
なるほど、ニュースにもならなかった訳だ。四六時中噴火してるのだから。

AM5:52、南岳(標高3,033M)到着。




さらばだ。
目を北に転ずれば、・・・この景色が見たかったのだ。


AM6:06、南岳を出発し尾根を進む。





険しさが際立つ3000M峰三座が連なる。

昨日の雨で朝の空気は澄み渡り、はるか遠くまで見通すことができる。







AM6:28、天狗原分岐(標高約2,970)。

本日は最終日。
まだ朝の6時半。このまま尾根伝いに槍ヶ岳へ向かい、穂先に登ってから下山することもできる。 だがここから分岐し、天狗原経由で帰ることにする。槍は次にとっておこう。 そうすることは昨日南岳小屋から夕映えの山々を見渡したころには決めていた。 むしろこの下の天狗池で「逆さ槍」を写真に収められないものか。 澄み渡る空気と晴天。風もない。これ以上のコンディションがあろうか。
穂高連峰と南岳を背に記念撮影。分岐標識にかける白軍手がカクイ。


AM6:30、分岐を出て下降を開始する。
横尾尾根の最頂部を下る。





AM7:08、横尾尾根のコル(約2,700)に到着。
長い下りに気温も上がってきて小休止。だいぶ疲れた。

氷河地形では巨大な重量の氷塊が山肌を削り取った後に、大量の岩屑(がんそう)をヒダ状に堆積させる。これを”モレーン”と呼んでいる。

左に大喰岳(3,101)、中央の肩に「槍ヶ岳山荘(2,990M)」。右下には「殺生ヒュッテ(2,865)」も見える。
(なぜ「殺生」??)
そして2つの山荘間の高低差を見ればえげつない斜度であることがわかる。

モレーン地帯を下ってゆく。
奥は表銀座の山々だ。


足元には様々な草や花が。早朝の水滴が残る。

だいぶ下ってくると、ようやく岩屑帯の中に天狗池が小さく見えてくる。

氷河の後退でモレーンとの間に水がたまったものが氷河湖であるそうだが、この池も氷河湖であろうか。
AM7:37、天狗池到着。標高およそ2,510Mだ。






天狗池と逆さ槍を30分ぐらいは堪能しただろうか。
いつまでも後ろ髪をひかれる思いで(なんならここでもう一泊しようかとも)、池を発つことに。

ここから20Mほど登り返しがある。これもモレーンの高まり部分だろうか。 一人、下ってくる登山者とすれ違う。
「先ほどその先で子熊をみました。十分注意してください。」
!!!!!!!!
子熊が一人でいるわけがない。母熊がいるに決まっている。 これはまずい。まずいよね。
慌てて付け忘れていた熊鈴を取り出す。こんなものが役に立つのだろうか。
悪いことに登り返した後は槍沢に向かって下りになるのだが、100Mほどの樹林帯を通過する。

こんな薮の中で出合い頭にクマと遭遇すれば命はない。
大声を出しながら進む。


樹林帯を抜ける。上方の草むらに親子はいるのだろうか・・・


ツバメ岩の巨大岩壁が聳える。

岩の先端部から水がほとばしり出ている。




クマに食われずに天狗原分岐に到着。余裕のAM8:31。

槍ヶ岳からの下山ルートと合流し、あとは上高地まで降りるだけだ。
登山者の数も格段に増えてくる。
天狗池を経由してきてよかった、本当に。

分岐からものすごいスピードで駆け下りて来て、大曲にはAM8:54到着。

大曲とババ平の中間地点に下写真のような水場(槍沢にそそぐ枝沢)がある。 午前9時を過ぎ、高度も下ったせいか気温が急上昇する。
ピエールさんは下りのスペシャリストだ。
次々に他の登山者を抜き去り駆け抜けてゆくが、その分体温も上がり汗の量も増えてくる。

上写真のような子沢・孫沢が上高地まで適当な間隔で現れてくれるので、 存分に水を飲み、タオルを浸し、終いには帽子ごと沢水に漬けてかぶる。 水場の度にくつろいでいるからそんな時間短縮にはならないが、構うものか。 上高地までは余裕だ。あせって急ぐ必要もない。







横尾には午前11時到着。ここでも時間をとって休むことにした。

気温は高くなり蒸すような感じだ。下界が近づいている。
徳澤園には12時過ぎに到着。ソフトクリームをいただくことに。
なんでこんな美味いのか。これはもう山小屋で提供されるレベルではない(徳澤園は車では来られないホテルだった)。




PM14:17、小梨平キャンプ場の入り口に到着。
ここはもう上高地の一部だ。

歩ききったぞ!
小梨平の「小梨の湯」で汗を流してからバスターミナルへ向かう。 そこからアルピコ交通のバスと鉄道で新島々~松本まで。そして東京へ帰ることになる。
小梨平から上高地バスターミナル間にも美しい流れの数々が見られる。





<エピローグ>
なんという充実した山行であったろうか。 西穂~奥穂間ではあまりにえげつない岩場下降の連続にもどしそうになった。 しかも午後には最も危険なジャンダルム・ロバ耳周辺で土砂降りに会う。 奥穂から大キレットも同様に、ただの一瞬も気の抜くことができない上り下りの緊張が一日中続く。
ところがどうだ、そのあとの絶景は。氷河の後に残る宝石のような池は。梓川の清冽な流れは。 ある意味命のかかった山行の緊張感もみなサラサラと流してしまい、楽しかったことだけが次々と思い出されるばかりだ。 しばしこの感動に浸っていても誰も文句は言うまい。 生きて帰って来たぞ。
<天狗原~槍沢の花々>













穂高連峰の稿、了。




