奥秩父主脈縦走5日間 <2019.05.01-05> 第四日目

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<第四日目>
甲武信小屋→甲武信ヶ岳→富士見→両門ノ頭→東梓→国師のタル→国師ヶ岳北奥千丈岳→大弛小屋

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寒くて、寝返りを打つたび何度も目が覚めた。
5時過ぎまでシュラフにくるまって、ぐずぐずしている。
寒いので、テントはそのままに小屋へ行って、またおでんをいただくことにした。
そして急いで準備をしてテントを撤収する。
さすがにおでんだけだと足りないので、小屋前のテラスで食事を作る。

甲武信小屋

そこへ、思わぬことにあのA氏が現れ、再会を喜ぶ。。
あの、石尾根で抜かれ、雲取避難小屋で再会して以来、ここまでつかず離れずでお互い来たわけだ。

「あ〜、どうも。ここにお泊りでしたか」
「いえ、降りたところに避難小屋があるでしょ。ここからだとちょっと距離ありますけど、そこで泊まって朝から上がってきたんです」
「そうでしたか。またお会い出来ましたね。大弛までですか?」
「そうです」
「僕も、飯食ったら行きます。」
「では、後ほどお会いしましょう」
「そうしましょう。お気をつけて」

この時は、なんだかうれしい気持ちになったのだが、あとでびっくりすることに気がついた。これは後述することにする。

出際に、せっかくなので小屋のご主人(息子さん?)と写真を取らせてもらう。 手と手を取り合う記念撮影

「大弛小屋のご主人によろしく伝えてください」
といって、送り出してもらう。
さて出発だ。トイレを済ませ、水も汲み、アイゼンを装着して、あ〜やっぱり7時だ。
せめて6時には出なさいよ。

07時24分、甲武信ヶ岳山頂到着。標高2475Mだ。
山ガールに写真を撮ってもらう。 甲武信ヶ岳

ここは、言わずとしれた三国境にして三川分水嶺だ。
甲斐・武蔵・信州の三国の境目であり、それぞれへと流れる富士川・荒川・千曲川が別れる場所でもある。

甲武信ヶ岳山頂より。
これから向かう国師までの尾根の全貌が見渡せる。 これから進む尾根

今朝は冷えたが天気もよく、よし、国師ヶ岳と、奥秩父最高峰の北奥千丈岳山頂(2601M)を踏むぞ、と決意を新たにする。
まさか、後にあのようなことになろうとは想像もできなかった。この時は。

分岐到着。
写真右は、千曲川源流地点を経て、毛木平へのルートだ。
国師へは、写真奥側へ進んでいく。 千曲川源流分岐

07時52分だ。山頂でゆっくりしすぎたか。 積雪多し

水師のあたりか・・・
この先の尾根は、だいたいこんな感じだろう。 水師あたり

(2373)富士見到着。
09時22分にもなっている。少し焦る。
写真のように、甲武信から国師にかけては、本当に倒木の多いコースだ。 富士見

ここで、90°左に折れる。
本日のルートでは、3箇所ほど90°ターンがある。 90°ターン

(2263)両門ノ頭に着く。10時02分だ。
展望ポイントなので少し休む。
天気もよく、国師・金峰方面もよく見える。 両門の頭

写真中央の残雪あざやかなピークが、金峰山だ。
いよいよ見えたか。
左は朝日岳か。 朝日岳・金峰山

両門ノ頭の目の前が塩山尾根。
左が鶏冠尾根。・・・ということになっている。 塩山尾根を見下ろす

足元のすぐ先は切れ落ちている。手すりはもちろんない。 足元が断崖

さて、ここから先へ進むにはどこから行けばよいのか?
正解は、この写真のがけの先右下へ降りる。
これがわからずに、一旦100Mほど戻ってしまった。
こういうのが一番しんどくなる。 進路あやまる

東梓から国師ノタルあたり

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東梓手前の、90°ターンのポイント。 90°ターン2

写真のようにロープを張ってくれている。 なんだか曇ってきた。 曇ってくる

おやと思うと、パラパラとひょうが降ってくる。
急に寒くなってきた。随分遠くでゴロゴロと音が聞こえたような気がする。 ひょうが降ってきた

(2271.8M)東梓に到着。11時28分だ。 東梓

気温が下がって風が出てきた。
グローブを出す。 グローブを取り出す

季節にはヤマシャクナゲが美しいことだろう。
このルートはしかし、道迷い遭難が起きやすいエリアだ。
今は残雪があり踏み跡をトレースできるので、アイゼンは必要だが逆にルートはわかりやすい。
雪がなくなると途端に、人気もなく踏み跡のうすい迷い道となるのだろう。 シャクナゲの咲くであろう登山道

(2224)か。 再びひょう

また、ひょうが降りだす。
雷鳴がはっきりと聞こえてきたが、まだ尾根の東側で比較的離れているようだ。
しかし、樹林帯の中にもかかわらず、冷たい風が吹き込んでくる。強い寒気が流れ込んでいる感じだ。
雷が近づく前兆としてよく言われることなので、何か嫌な感じがしてきた。

12:17分、国師のタルに到着。標高約2155M。
簡単な昼食を取る。 国師のタル

ここから、標高差にして約450Mちかく登る。
ひょうだったのが、ほとんど雪になってきた。
雨具を出す。
それにしても、本当に倒木が多い。 国師への登り始め

標高が上がるにつれ、あたりも残雪が深くなってきた。
そしてはっきりとした雪になってきた。
だが、それよりももっと恐れていたことが現実となる。
ごろごろとした大きな雷鳴が、尾根の東からだけでなく、反対の西側からも聞こえ、それも間近に迫ってきた。
ひゅうひゅうという風切音。
そして、パッと光って後に「どーん」という大きな音がするのが、間隔がせばまってきた。 雷迫る尾根

そしてついにその時がくる。

閃光とともに
「ドカーーーン」(!!!)
という炸裂音、というか爆発音。
ーーーミサイルでも着弾したようなとてつもない轟音。
一瞬あたりが白く煙ったような・・・。
その場に倒れ込むように伏せる。
耳がキーンとする。

距離にして、100Mか、200Mか・・・。
体がガクガクと震えているのがわかる。
もちろん寒いからではない。
そのまま動けなくなった。

どうすればいい、どうすればいい。

とにかく、ストックを3Mくらい放り投げて、伏せたままでいる。
間もなくまた、「どーーん」と近くに落ちる。
20〜30分動かずにいた。

写真は雪面にへばりついた姿勢から起き上がろうとした途端に、アイゼンで雨具のズボンを引き裂いてしまったものだ。
シャアアアーーーーーッと、派手な音がした。 雨具のズボン裂ける

雷はだんだんと落ちる間隔が長くなり、少し遠ざかったようだ。
さて、どうするか。
どうするもこうするもない。
このコースには、エスケープルートはないのだ。
それにこんな時間から、甲武信小屋まで引き返せるわけでもない。
進むしかないんだ。
それに雷がすこし遠ざかっても、今度は本格的な降雪となってきた。
もはや停滞は許されない。さっさと登れ。

国師ノ肩のまだ手前。2465ポイントだと思う。
ゴールデンウィークの風景だ。 2465ポイント

右のほうが国師かな・・ 国師が見えてくる

リュックに雪が積もっている。
リュックカバーを出すのも忘れている。 リュックに積雪

天狗尾根か。
・・・また雷が近づいてきた。空じゅうでゴロゴロ言っている。 また雷が・・・

ふと、「尾根筋にこれだけ倒木が多かったのは、雷の直撃で樹木が根本から折れたものか・・・」という考えに行きつく。
自然と足早くなる。やばいぞ、やばい・・。
つんのめりそうだ。

完全に冬の風景・・(下写真)。
これがゴールデンウィークの風景だ。 冬の風景

西の空に、一瞬晴れ間がのぞく。 一瞬の晴れ間

この標識、国師ノ肩か。 国師ノ肩

正面が、今度こそ国師だろう。 国師山頂が見えてくる

吹雪になってきたぞ。 吹雪の登山道

あれか、頂上標識は。 国師ヶ岳

15時23分、国師ヶ岳到着。標高2592Mだ。 頂上標識左が北奥千丈岳

さて時間も押しているが、北奥千丈岳はどうするか?
吹雪は止む気配がない。
だがここまで来て、奥秩父最高峰を踏まずに帰るのか。
いいや、それはナシだ。
意を決し、分岐で荷物をデポして、ピストンを決行する。

15時33分、北奥千丈岳。標高2601M。 北奥千丈岳到着

ついに、ここまで来てやったぞ。 山頂の自撮

左が国師ヶ岳。写真では向こうがむしろ高く見えなくもないが、標高差で約9Mこちらが高い。 国師見返し

一瞬、朝日岳方向が見える。 朝日岳方面

この先は、奥千丈岳への尾根が続くが・・・もちろん引き返す。
秩父最高点は、確かに踏んだぞ。
吹雪が激しくなってきた。 奥秩父最高点

分岐に戻ってきた。
木の下にデポしたリュックが、だいぶ雪を被っている。 再び分岐

埋まった標識に、「大弛峠」の文字が。
ここから210Mほど下れば、大弛小屋だ。急ぐぞ。 埋まった標識

降雪で、トレースが消えてしまうことを考えると空恐ろしい。 雪降り積もる

右が北奥千丈岳北奥千丈岳見返り

こっちが、国師かな。 国師見返り

甲武信方面が見える。あゆんできた道。 甲武信方面

さて、ここからの下りで、またしても事件が。
積雪が深いところもあり、時に太もものあたりまで踏み抜きながら歩いていたのだが、ある瞬間にアイゼン同士が絡まって、両足首が固定されてしまい、前のめりに倒れてしまう。
顔面強打はなんとか免れたが、ストックが手首近くまで埋まってしまい、引き抜いたら先端の輪が抜けてしまった。
いくら掘ってもわからず、諦めることにした。
しばらく行くと、木段が現れる。
久々の人工物を見て、安堵が広がる。

着いた。ははは・・生きているぞ。 大弛小屋到着

大弛小屋。16時19分到着だ。 小屋玄関

「こんにちは」と扉を開けると、入り口のストーブ脇に、A氏がいるじゃないか。
むこうも、「お〜〜っ」。
こっちも、「お〜〜〜っ」。

小屋のご主人に、
「すみません、今日小屋泊したいんですが。」
「いいですよ、ただご飯は?」
「ご飯もいただきたいんです。」
「準備がもう終わっちゃうんだよね・・」
「そこをなんとか・・。自分は何でもいいです。」
「う〜ん、なんとかしましょうか・・」
無理を聞いていただいた。申し訳ない。

その日の夕食は、これまでの4日間の食事とは全く比べようもない、豪華なすき焼き鍋!
おでんとデザートのプリンも付いている。
それに、「令和になったから、祝い酒だよ」といって、白ワインのグラスまで付いている。
感動以外の何物でもない食事にありついて貪り食ったので、写真もろくに撮っていない。

大弛小屋のご主人。ありがとうございます。 ご主人、ありがとう

こちらは自転車で峠まで登ってきたという、チャリダーのお二人。 食事風景

こちらB氏は、A氏や私のように奥多摩からではないが、大菩薩嶺のほうから越えて来たというから、強者でいらっしゃる。 感動のすき焼き鍋

食後にこたつを囲んで、A氏やB氏、チャリダーのお二人、その他の登山者の皆さんと、楽しい山のお話をして盛り上がった。
いつの間にか私も、今日のカミナリと吹雪のくだりを皆さんの前で力説している。
「尾根でそれじゃあ、ほんとにキツかったですね」
とねぎらってもらった。
皆様、自分より1時間半は早く着いていらっしゃる。
だいたい、出発が遅いんだよ。

さて明日は金峰だ。
ここまで来たら、なんとか瑞牆山荘まで、今回の縦走をつないで完結させたい。猛吹雪とか土砂降りにならなければの話だが。
A氏、B氏とも、明日は金峰だけでなく、富士見から瑞牆山にも登るという。
自分は、足の状態もあり、大日から瑞牆山荘へ降りることにしている。
一心地つくと、思い出したように膝が痛み出しているからだ。
明日の天気を祈り、床につく。
久しぶりに床の上で横になり、あっという間に眠りに落ちる。

<第四日目 終了> 

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