<第四日目>
甲武信小屋→甲武信ヶ岳→富士見→両門ノ頭→東梓→国師のタル→国師ヶ岳→北奥千丈岳→大弛小屋
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寒くて、寝返りを打つたび何度も目が覚めた。
5時過ぎまでシュラフにくるまって、ぐずぐずしている。
寒いので、テントはそのままに小屋へ行って、またおでんをいただくことにした。
そして急いで準備をしてテントを撤収する。
さすがにおでんだけだと足りないので、小屋前のテラスで食事を作る。
そこへ、思わぬことにあのA氏が現れ、再会を喜ぶ。。
あの、石尾根で抜かれ、雲取避難小屋で再会して以来、ここまでつかず離れずでお互い来たわけだ。
「あ〜、どうも。ここにお泊りでしたか」
「いえ、降りたところに避難小屋があるでしょ。ここからだとちょっと距離ありますけど、そこで泊まって朝から上がってきたんです」
「そうでしたか。またお会い出来ましたね。大弛までですか?」
「そうです」
「僕も、飯食ったら行きます。」
「では、後ほどお会いしましょう」
「そうしましょう。お気をつけて」
この時は、なんだかうれしい気持ちになったのだが、あとでびっくりすることに気がついた。これは後述することにする。
出際に、せっかくなので小屋のご主人(息子さん?)と写真を取らせてもらう。
「大弛小屋のご主人によろしく伝えてください」
といって、送り出してもらう。
さて出発だ。トイレを済ませ、水も汲み、アイゼンを装着して、あ〜やっぱり7時だ。
せめて6時には出なさいよ。
07時24分、甲武信ヶ岳山頂到着。標高2475Mだ。
山ガールに写真を撮ってもらう。
ここは、言わずとしれた三国境にして三川分水嶺だ。
甲斐・武蔵・信州の三国の境目であり、それぞれへと流れる富士川・荒川・千曲川が別れる場所でもある。
甲武信ヶ岳山頂より。
これから向かう国師までの尾根の全貌が見渡せる。
今朝は冷えたが天気もよく、よし、国師ヶ岳と、奥秩父最高峰の北奥千丈岳山頂(2601M)を踏むぞ、と決意を新たにする。
まさか、後にあのようなことになろうとは想像もできなかった。この時は。
分岐到着。
写真右は、千曲川源流地点を経て、毛木平へのルートだ。
国師へは、写真奥側へ進んでいく。
07時52分だ。山頂でゆっくりしすぎたか。
水師のあたりか・・・
この先の尾根は、だいたいこんな感じだろう。
(2373)富士見到着。
09時22分にもなっている。少し焦る。
写真のように、甲武信から国師にかけては、本当に倒木の多いコースだ。
ここで、90°左に折れる。
本日のルートでは、3箇所ほど90°ターンがある。
(2263)両門ノ頭に着く。10時02分だ。
展望ポイントなので少し休む。
天気もよく、国師・金峰方面もよく見える。
写真中央の残雪あざやかなピークが、金峰山だ。
いよいよ見えたか。
左は朝日岳か。
両門ノ頭の目の前が塩山尾根。
左が鶏冠尾根。・・・ということになっている。
足元のすぐ先は切れ落ちている。手すりはもちろんない。
さて、ここから先へ進むにはどこから行けばよいのか?
正解は、この写真のがけの先右下へ降りる。
これがわからずに、一旦100Mほど戻ってしまった。
こういうのが一番しんどくなる。
東梓から国師ノタルあたり
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東梓手前の、90°ターンのポイント。
写真のようにロープを張ってくれている。 なんだか曇ってきた。
おやと思うと、パラパラとひょうが降ってくる。
急に寒くなってきた。随分遠くでゴロゴロと音が聞こえたような気がする。
(2271.8M)東梓に到着。11時28分だ。
気温が下がって風が出てきた。
グローブを出す。
季節にはヤマシャクナゲが美しいことだろう。
このルートはしかし、道迷い遭難が起きやすいエリアだ。
今は残雪があり踏み跡をトレースできるので、アイゼンは必要だが逆にルートはわかりやすい。
雪がなくなると途端に、人気もなく踏み跡のうすい迷い道となるのだろう。
(2224)か。
また、ひょうが降りだす。
雷鳴がはっきりと聞こえてきたが、まだ尾根の東側で比較的離れているようだ。
しかし、樹林帯の中にもかかわらず、冷たい風が吹き込んでくる。強い寒気が流れ込んでいる感じだ。
雷が近づく前兆としてよく言われることなので、何か嫌な感じがしてきた。
12:17分、国師のタルに到着。標高約2155M。
簡単な昼食を取る。
ここから、標高差にして約450Mちかく登る。
ひょうだったのが、ほとんど雪になってきた。
雨具を出す。
それにしても、本当に倒木が多い。
標高が上がるにつれ、あたりも残雪が深くなってきた。
そしてはっきりとした雪になってきた。
だが、それよりももっと恐れていたことが現実となる。
ごろごろとした大きな雷鳴が、尾根の東からだけでなく、反対の西側からも聞こえ、それも間近に迫ってきた。
ひゅうひゅうという風切音。
そして、パッと光って後に「どーん」という大きな音がするのが、間隔がせばまってきた。
そしてついにその時がくる。
閃光とともに
「ドカーーーン」(!!!)
という炸裂音、というか爆発音。
ーーーミサイルでも着弾したようなとてつもない轟音。
一瞬あたりが白く煙ったような・・・。
その場に倒れ込むように伏せる。
耳がキーンとする。
距離にして、100Mか、200Mか・・・。
体がガクガクと震えているのがわかる。
もちろん寒いからではない。
そのまま動けなくなった。
どうすればいい、どうすればいい。
とにかく、ストックを3Mくらい放り投げて、伏せたままでいる。
間もなくまた、「どーーん」と近くに落ちる。
20〜30分動かずにいた。
写真は雪面にへばりついた姿勢から起き上がろうとした途端に、アイゼンで雨具のズボンを引き裂いてしまったものだ。
シャアアアーーーーーッと、派手な音がした。
雷はだんだんと落ちる間隔が長くなり、少し遠ざかったようだ。
さて、どうするか。
どうするもこうするもない。
このコースには、エスケープルートはないのだ。
それにこんな時間から、甲武信小屋まで引き返せるわけでもない。
進むしかないんだ。
それに雷がすこし遠ざかっても、今度は本格的な降雪となってきた。
もはや停滞は許されない。さっさと登れ。
国師ノ肩のまだ手前。2465ポイントだと思う。
ゴールデンウィークの風景だ。
右のほうが国師かな・・
リュックに雪が積もっている。
リュックカバーを出すのも忘れている。
天狗尾根か。
・・・また雷が近づいてきた。空じゅうでゴロゴロ言っている。
ふと、「尾根筋にこれだけ倒木が多かったのは、雷の直撃で樹木が根本から折れたものか・・・」という考えに行きつく。
自然と足早くなる。やばいぞ、やばい・・。
つんのめりそうだ。
完全に冬の風景・・(下写真)。
これがゴールデンウィークの風景だ。
西の空に、一瞬晴れ間がのぞく。
この標識、国師ノ肩か。
正面が、今度こそ国師だろう。
吹雪になってきたぞ。
あれか、頂上標識は。
15時23分、国師ヶ岳到着。標高2592Mだ。
さて時間も押しているが、北奥千丈岳はどうするか?
吹雪は止む気配がない。
だがここまで来て、奥秩父最高峰を踏まずに帰るのか。
いいや、それはナシだ。
意を決し、分岐で荷物をデポして、ピストンを決行する。
15時33分、北奥千丈岳。標高2601M。
ついに、ここまで来てやったぞ。
左が国師ヶ岳。写真では向こうがむしろ高く見えなくもないが、標高差で約9Mこちらが高い。
一瞬、朝日岳方向が見える。
この先は、奥千丈岳への尾根が続くが・・・もちろん引き返す。
奥秩父最高点は、確かに踏んだぞ。
吹雪が激しくなってきた。
分岐に戻ってきた。
木の下にデポしたリュックが、だいぶ雪を被っている。
埋まった標識に、「大弛峠」の文字が。
ここから210Mほど下れば、大弛小屋だ。急ぐぞ。
降雪で、トレースが消えてしまうことを考えると空恐ろしい。
右が北奥千丈岳。
こっちが、国師かな。
甲武信方面が見える。あゆんできた道。
さて、ここからの下りで、またしても事件が。
積雪が深いところもあり、時に太もものあたりまで踏み抜きながら歩いていたのだが、ある瞬間にアイゼン同士が絡まって、両足首が固定されてしまい、前のめりに倒れてしまう。
顔面強打はなんとか免れたが、ストックが手首近くまで埋まってしまい、引き抜いたら先端の輪が抜けてしまった。
いくら掘ってもわからず、諦めることにした。
しばらく行くと、木段が現れる。
久々の人工物を見て、安堵が広がる。
着いた。ははは・・生きているぞ。
大弛小屋。16時19分到着だ。
「こんにちは」と扉を開けると、入り口のストーブ脇に、A氏がいるじゃないか。
むこうも、「お〜〜っ」。
こっちも、「お〜〜〜っ」。
小屋のご主人に、
「すみません、今日小屋泊したいんですが。」
「いいですよ、ただご飯は?」
「ご飯もいただきたいんです。」
「準備がもう終わっちゃうんだよね・・」
「そこをなんとか・・。自分は何でもいいです。」
「う〜ん、なんとかしましょうか・・」
無理を聞いていただいた。申し訳ない。
その日の夕食は、これまでの4日間の食事とは全く比べようもない、豪華なすき焼き鍋!
おでんとデザートのプリンも付いている。
それに、「令和になったから、祝い酒だよ」といって、白ワインのグラスまで付いている。
感動以外の何物でもない食事にありついて貪り食ったので、写真もろくに撮っていない。
大弛小屋のご主人。ありがとうございます。
こちらは自転車で峠まで登ってきたという、チャリダーのお二人。
こちらB氏は、A氏や私のように奥多摩からではないが、大菩薩嶺のほうから越えて来たというから、強者でいらっしゃる。
食後にこたつを囲んで、A氏やB氏、チャリダーのお二人、その他の登山者の皆さんと、楽しい山のお話をして盛り上がった。
いつの間にか私も、今日のカミナリと吹雪のくだりを皆さんの前で力説している。
「尾根でそれじゃあ、ほんとにキツかったですね」
とねぎらってもらった。
皆様、自分より1時間半は早く着いていらっしゃる。
だいたい、出発が遅いんだよ。
さて明日は金峰だ。
ここまで来たら、なんとか瑞牆山荘まで、今回の縦走をつないで完結させたい。猛吹雪とか土砂降りにならなければの話だが。
A氏、B氏とも、明日は金峰だけでなく、富士見から瑞牆山にも登るという。
自分は、足の状態もあり、大日から瑞牆山荘へ降りることにしている。
一心地つくと、思い出したように膝が痛み出しているからだ。
明日の天気を祈り、床につく。
久しぶりに床の上で横になり、あっという間に眠りに落ちる。
<第四日目 終了>